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第一壁やダイバータの様に、プラズマに直接さらされている部分は過酷な状況下におかれています。
では、これらの部分にはどんな材料が使われるのでしょう?

プラズマにさらされる材料は必ずといっていいほどイオンや電子などが入射します。この入射によって放出される材料原子はプラズマ中において不純物として振舞い、高温のプラズマを冷却してしまいます。このプラズマを冷却する能力は、高い原子番号の元素ほど大きいので、従来より低い原子番号の材料が壁材料として候補に挙がってきました。

低原子番号材料である炭素材は、高温で融解しない事、安価である事などの理由から壁材料と幅広く研究されてきました。しかしながら、炭素材にはいろいろな問題があることもわかってきました。炭素材は、金属材などと比べてプラズマによる損耗が大きくなります(前章参照)。さらに、炭素材は水素を取り込みやすいという特徴もあります。現在、精力的に研究の進められている重水素イオンと三重水素イオンによる核融合反応を利用してエネルギーを取り出す炉では、放射性物質である三重水素の管理が問題になりますが、炭素材中に多くの水素が蓄積されるためその管理が難しくなります。
また熱が多く入る部分(トカマク型装置では通常ダイバータ部分)には、高熱負荷に耐えるため熱伝導の良い材料を用いる必要があります。炭素材も最近の研究開発でかなり熱伝導が良い材料が製作されていますが、実際の使用状態では核融合プラズマから放出される中性子により急速にその特性は劣化してしまいます。
そこで、不純物として振舞うには問題がありますが損耗されにくく、かつ中性子に対する材料の照射劣化が少ないタングステンなどの高原子番号材料が現在注目されてきています。ただ、これまで高原子番号材料を壁材料として使用したときのプラズマ閉じ込めに関する研究は少なく、これから実験データを蓄積する必要があります。
現在のところ、次期大型実験装置として設計が進んでいる国際熱核融合実験炉 (ITER: International Thermonuclear Experimental Reactor)では、多くの部分で低原子番号材料であるベリリウムや炭素を使用する予定ですが、一部では金属材(タングステン)の利用も予定されています。
最終的に壁材料としてどのような材料が適当かという点については、今のところはっきりとはわかっていません。それを検討するためのデータベースも十分では無く、さらにはイオン(プラズマ)と材料が接触したときに起こる現象(プラズマ・壁相互作用)の理解も十分とはいえません。

どんな材料が適してる?
イオンが入射すると上記の壁材料の損耗以外に、入射したイオンの反射、電子の放出なども起こります。また、入射されたイオンの一部は、材料中に留まり内部へ拡散して材料中に取り込まれたりあるいは表面まで戻ってそこから分子や原子の形で再放出されます。電子が入射した場合には、イオンと違い質量が小さいため材料中の原子が放出されることはほとんどありませんが、2次的な電子が放出されたり、入射電子の反射が主な影響になります。実際の核融合炉の壁には、水素の同位体イオン(重水素 D 、三重水素 T)と電子以外に、いったんプラズマ中に放出された壁材料が再びイオンとして入射します。また、材料中に通常存在する酸素もイオンとなって、材料に入射します。
イオンや電子は、壁に熱を流入させその温度を上昇させます。表面の温度が融点(昇華点)以上になると、材料は蒸発(昇華)によりプラズマ中へと放出されます。その結果、早く損耗してしまい壁材料の寿命は短くなってしまいます。また、プラズマには熱を与える以外に粒子を入射させるという特徴があります。イオンがある程度エネルギーを持って入射すると壁材料を構成している原子をはじき飛ばします。この事を物理スパッタリングと呼びます。この現象は、どのようなイオンと材料との組み合わせでも起こりますが、イオンのエネルギーがある程度以下になると起こらなくなります。熱や物理スパッタリングによって壁材料が損耗されると、材料原子はプラズマ中へと放出されます。プラズマ中へ入った原子は、不純物として振る舞うため高温のプラズマを冷却してしまい、最悪の場合には核融合反応の持続が困難になります。壁材料として候補に挙げられている炭素材の場合には、この物理スパッタリングに加えて化学スパッタリングや照射促進効果と呼ばれる現象があるため、他の材料より早く損耗します。化学スパッタリングとは、炭素材に水素(同位体)イオンや酸素イオンを入射した際に、メタンなどの炭化水素や一酸化炭素等のガス状態の分子を生成して損耗する現象です。この現象は500℃〜600℃程度で最も顕著になります。また照射促進効果とは、炭素材が1000℃以上になったとき、イオンの衝突により通常の熱昇華よりも低い温度で昇華が起こる現象です。これはどのような種類のイオンの照射でも起こります。
さて、プラズマと対向材料(第一壁、ダイバータ等)が接触する事でいったいどんな現象が起こるのでしょうか。第一壁を例に説明していきましょう。第一壁にはプラズマからくる粒子としてイオンや電子が入射します。(実際にはさらに中性の原子、分子、電磁波、中性子などが入射しますが、ここでは代表的な現象のついてのみ取り上げます。)
プラズマと接触すると? 〜プラズマ・壁相互作用 〜
PSI(Plasma Surface Interaction)の説明